読書感想文「ささやく真実」
ヘレン・マクロイ/駒月雅子 訳
マクロイの作品を読むのは「逃げる幻」以来2作目。どちらも精神科医ベイジル・ウィリングが探偵役となるシリーズだ(が、時系列順に読まなくても特に問題はなさそうで、書店で目に付いた順に買っている)。
この本は2017本格ミステリベスト1位になっているので今更語る人も少ないと思うが、自分にとってとても良い読書体験だったので、備忘録的に感想を書く。(ネタバレは無いと思う)
というか、彼女の作品が今になって邦訳刊行されていることに驚いている。
・魅力的な悪女を中心に集まる人物の描写のうまさ。不穏な空気をはじめから隠すことなく書いているのに、誰が犯人なのか分からないくらい平等に説明されている。
・所謂カントリーハウスものというか「ある屋敷に登場人物が集まり、そこで起きる殺人事件」は人物をいかに魅力的に書くかというところがミソだと思っている。推理小説の様式美を押さえた上での人物描写上乗せにはぐうの音もでなかった。
・美男美女が無駄遣いされてない。普通の容姿を普通に描ける。その人の肩書きや属性を服装の描写で肉付けているのだけれど、それが流れるように描かれる。キャラクターの外見が目に浮かぶのは、実際に視点を動かしたかのように説明しているからだろう。
・時折入る時代背景への皮肉がきちんとキャラクターの目を通して語られる。作者の言葉にはなっていない。(実際に作者が支持していた思想てあっても)
・とにかく訳が上手い。キャラクターの生きた台詞はもちろんのこと、彼らの身につけているものや、それを観察するウィリングの主観つきの説明文、どれをとっても綺麗で過不足がない印象。
・タイトルの邦題は「死に至る真実」や「致命的な真実」が直訳に近いかもしれないが、最後まで読んだら「ささやく真実」がばっちりな邦訳だった。これ以外ない。読んで納得。
次は彼女の「幽霊の2/3」あたりを読みたい。